はじめに
「経理の仕事にAIを使ってみたい」——そう感じている方は、この数年でかなり増えたと思います。僕自身も、製造業・小売・病院と経理の現場を渡り歩く中で、同じように感じてきました。
ただ、いざ上司に相談しようとすると、うまく言葉にできない。そんな経験はないでしょうか。「AIを使いたいんです」と伝えても、上司の反応は今ひとつ。情報漏えいは大丈夫なのか、費用はどれくらいかかるのか、効果はあるのか——そうした疑問が解消されないまま、話が前に進まなくなってしまうのです。
今回は、AI活用の提案を上司に通すために、最初に何を伝えるべきかを整理していきます。
1. AI活用の提案が通らない理由
「AIを導入したい」という言い方には、実は落とし穴があります。それは、主語が「AI」になってしまっていることです。
上司の立場から見ると、AIは手段であって目的ではありません。にもかかわらず「AIを使いたい」という提案は、AIそのものを導入することが目的であるかのように聞こえてしまいます。すると上司の頭には、自然と次のような疑問が浮かびます。
- 何を改善したいのか
- AIを使うことで、作業時間やミスはどう変わるのか
- 機密情報や個人情報をどう扱うのか
- 試す範囲・期間・確認者は誰か
これらに答えられないまま「便利そうだから」で押し切ろうとすると、承認は得にくくなります。上司が知りたいのは、AIの機能ではなく、AIを使うことで業務のどこが良くなるのか、という一点だからです。
2. 最初に伝えるべきことは「AI」ではなく「業務課題」
提案を通しやすくする一番のポイントは、話す順番を変えることです。
AIの説明から入るのではなく、「今、どの業務の、どんな作業に時間がかかっているか」から話し始めます。たとえば、月次決算の資料作成に時間がかかっている、定型的なメール返信に毎日一定の時間を取られている、といった具体的な困りごとです。
そのうえで、「この部分にAIを試験的に使ってみたい」という順序で伝えると、上司にとっては「業務改善の相談」として受け止めやすくなります。AIはあくまで、その課題を解決するための選択肢のひとつという位置づけです。
主語を「AI」から「業務課題」に変えるだけで、提案の印象は大きく変わります。
3. 上司に伝えるべき3つのポイント
具体的には、次の3点を順番に伝えることをおすすめします。

① 現状の課題
何に時間がかかっているか、どの作業が遅れの原因になっているかを、できるだけ具体的に伝えます。「なんとなく大変」ではなく、「毎月この資料作成に◯時間かかっている」といった形で言語化することが大切です。
② 小さく試す範囲
いきなり全社導入や基幹業務への適用を提案するのではなく、機密情報を含まない業務から試す範囲を提示します。定型メールの下書き、会議資料のたたき台作成、Excel関数の相談などは、比較的始めやすい領域です。
③ 確認・管理の方法
AIの出力をそのまま使わないこと、機密情報や個人情報を入力しないこと、社内の情報セキュリティルールを事前に確認することを、自分から伝えます。上司が懸念しがちな点を先回りして示すことで、「リスクを理解したうえでの提案」だと伝わります。
4. そのまま使える提案文の例
実際に使える言い回しの一例です。自分の状況に合わせて調整してください。
「〇〇の資料作成に毎月一定の時間がかかっており、負担になっています。まずは機密情報を含まない△△の業務(定型メールの下書きなど)に絞って、生成AIを試験的に使ってみたいと考えています。出力はそのまま使わず必ず内容を確認しますし、情報セキュリティのルールも事前に確認したうえで進めます。1か月ほど試して、作業時間や効果を記録し、改めてご報告します。」
課題・範囲・管理方法の3点が入っていれば、文章はご自身の言葉に置き換えて問題ありません。
5. 小さく試した後に記録すべき数字
提案が通り、実際に試してみたら、感覚だけで終わらせずに数字として残しておくことをおすすめします。次に報告するときの説得材料になりますし、自分自身の判断材料にもなります。

- 作業時間:始める前後で、1回あたりの作業時間を記録します
- 修正回数やミス:AIの下書きを何回直したか、誤りがなかったかを記録します
- 月次作業への影響:資料完成日や締め作業の遅れがどう変わったかを確認します
これらは大きな成果でなくても構いません。「多少なりとも変化があったか」を記録しておくことが、次の提案の土台になります。
AIに任せてよいこと、人が担うべきこと
最後にもうひとつ、意識しておきたい線引きがあります。AIに任せてよいのは、下書きの作成、情報の整理、考えを言語化するための壁打ちといった領域です。一方で、最終的な判断や数字・事実の確認は、引き続き人が担う必要があります。
この線引きを上司に伝えられると、「AIに丸投げするつもりはない」という姿勢が伝わり、提案への信頼感も高まります。
まとめ
AI活用の提案は、AIそのものを売り込むことではありません。今ある業務のどこに困りごとがあり、それをどう減らしたいのかという業務改善の提案です。
現状の課題、小さく試す範囲、確認・管理の方法。この3点を順番に伝え、機密情報を含まない業務からまず小さく試してみる。それだけで、提案の通りやすさは大きく変わってきます。
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