こんにちは!ケンドーマメです。
「病院の経理って大変そう」という声をよく聞きますが、実際のところどうなのでしょうか。一般企業の経理経験者でも、病院の経理に転職して驚く事が多いと思います。
僕も、7年勤めた製造業の経理から病院経理に転職した際、驚いた事などがあります。その経験を踏まえ、効率的に業務を進めるコツをお伝えしたいと思います。
(今はまた製造業の経理に戻っていますが(笑))
病院経理が激務で忙しくなる3つの理由
1. 診療報酬制度による複雑な収益計算

病院経理の最大の特徴は、診療報酬制度に基づく収益管理です。
一般企業のように「商品を売って代金を受け取る」というシンプルな取引とは大きく異なります。
診療報酬の複雑さ
- 保険点数による計算(1点=10円の原則だが例外多数)
- 患者負担割合の違い(1割、2割、3割負担)
- 高額療養費制度による患者負担上限
- DPC(診断群分類包括評価)による定額制
- 施設基準による加算・減算
実際の現場では、月末になると診療報酬明細書(レセプト)の点検に膨大な時間を要します。特に査定(保険者による支払い拒否)が発生した場合、原因究明と再審査請求の準備で残業が続くことも珍しくありません。
私が担当していた病院では、月初の査定結果確認から再審査請求書類作成まで、平均して月20時間程度の残業が発生していました。
他の求人サイトなどで見ても、病院経理の残業時間は20時間以内の所が多い様です。
2. 24時間365日稼働している事による業務対応
病院は一般企業と違い、土日祝日、年末年始も関係なく稼働しています。これが経理業務にも大きな影響を与えます。
休日・夜間の業務対応
- 救急患者の未収金管理
- 夜間・休日加算の計算確認
- 医療材料の緊急発注対応
- 給与計算での夜勤手当・休日出勤手当の複雑な計算
特に救急指定病院では、深夜の緊急手術や高額な医療機器使用により、想定外の高額請求が発生することがあります。これらの会計処理は翌営業日に集中するため、月初の業務負荷が非常に高くなります。
3. 多様な関係者との調整業務
病院経理は、一般企業以上に多くの関係者との調整が必要です。
主な調整先
- 各診療科の医師・看護師(診療報酬に関する問い合わせ)
- 医事課(レセプト関連の確認事項)
- 薬剤部(薬品の在庫管理・発注)
- 放射線科(高額機器のリース契約管理)
- 栄養科(給食委託費の管理)
- 社会保険事務所(各種届出・監査対応)
医療従事者は医療の専門家であり、経理・会計の知識が限られているケースが多いため、診療報酬の仕組みから丁寧に説明する必要があります。この「教育」的な側面も、病院経理の時間を大きく占めています。
一般企業の経理との違い 病院経理特有の業務とは
僕は製造業、小売業、病院経理の経験があります。
あくまで僕が勤めていた製造業や小売業との違いになりますのでご了承下さい。
診療報酬請求業務の特殊性
一般企業の売上管理と病院の診療報酬請求では、根本的な考え方が異なります。
一般企業の売上
- 契約による明確な金額
- 請求から入金までの期間が比較的短い(経験則で早くて翌月、長くても4か月程度で入金)
- 取引先との直接やりとり
病院の診療報酬
- 複雑な点数計算による金額算定
- 患者・保険者・公費負担者の3者構造
- 審査支払機関(国保連・社保)を通じた間接請求
- 請求から入金まで最低2ヶ月のタイムラグ
実際の業務では、毎月10日までにレセプト請求を完了させる必要があり、この期間は連日残業となる事が多い様です。
医療材料・薬品管理の複雑さ

病院では、一般的な事務用品とは比較にならないほど多種多様な医療材料を管理します。
医療材料管理の特徴
- 薬事法による管理義務
- 使用期限の厳格な管理
- 高額材料の個別管理(ペースメーカー、人工関節等)
- 保険適用の可否判断
- 廃棄時の特別な処理(感染性廃棄物等)
あくまで僕の経験則なので、ご了承下さい。
製造業の場合ですと、在庫管理などは製品のみなので、ここまで煩雑ではありませんでしたが、産業廃棄物などの取り扱いに注意が必要でした。
補助金・交付金の複雑な会計処理
病院には様々な補助金制度があり、その会計処理も特殊です。
主な補助金・交付金
- 運営費補助金(自治体病院の場合)
- 医療機器整備補助金
- 災害時医療体制整備補助金
- 地域医療構想関連補助金
- 新型コロナウイルス関連補助金
これらの補助金は、それぞれ異なる会計基準に従って処理する必要があり、監査時には詳細な資料作成が求められます。
「人手不足」だけじゃない?病院経理の忙しさを生む構造的な問題
制度変更への対応負荷
医療制度は2年に1度の診療報酬改定をはじめ、頻繁に変更されます。これに伴うシステム改修や業務フローの見直しが、恒常的な業務負荷となっています。
最近の主な制度変更
- 電子カルテ・電子処方箋・マイナ保険証の普及
- 診療報酬 加算評価の見直し・新設
- オンライン診療の法制化
- 健康保険証の「マイナ保険証」移行
特に2025年12月で新規発行停止が決定しているマイナ保険証への移行は、医療従事者でなくても混乱したと思います。
参考:富士通 2025年4月改定:医療DX推進体制整備加算の改定内容と実務対応のポイント
参考:オンライン診療についてのニュース
参考:厚生労働省 マイナ保険証について
製造業の経理も税制などの変更はありましたが、自社に関わる税制の変更なども頻度が少なかった印象です。
病院特有の予算管理の困難さ
病院の予算管理は、一般企業と比べて予測が非常に困難です。
予算管理の難しさ
- 患者数の季節変動(インフルエンザ、熱中症等)
- 突発的な医療事故・医療訴訟費用
- 高額医療機器の故障・更新時期の不確定性
- 医師の異動に伴う診療科収益の変動
- 新型コロナ等の感染症による影響
製造業の場合ですと、需要などはある程度見込める為、予算管理は比較的楽です。
IT化の遅れと非効率な業務フロー

多くの病院では、IT化が遅れており、手作業による業務が多く残っています。
IT化の遅れによる影響
- 手書き伝票による仕訳入力
- Excelでの個別管理(統合されたシステムなし)
- 紙ベースの承認フロー
- 部門間でのデータ共有不備
僕が担当していた病院や、僕が勤めていた病院経理をサポートする会社でも、振込伝票などは手書きでした・・・。今となっては信じられませんが。
専門知識習得の継続的な負担
病院経理には、一般的な会計知識に加えて医療業界特有の知識が必要です。
必要な専門知識
- 診療報酬制度の詳細な理解
- 医療法・薬事法等の関連法規
- 病院会計準則
- 医療機器の特性と減価償却
- 保険制度の仕組み
これらの知識は常にアップデートが必要で、研修参加や資格取得のための時間確保も課題となっています。
病院経理の忙しさを乗り越える実践的な対処法
1. 業務の効率化
月次業務スケジュールの明確化 月次ルーティーン業務を日単位で明確にスケジューリングし、前倒しで実行できるものは早めに処理するよう心がけましょう。
例:この資料が揃ったら、半分は進められる。など
チェックリストの活用 複雑な診療報酬計算については、ミスを防ぐためのチェックリストを作成し、ダブルチェック体制を構築していきましょう。
2. 関係部署との連携強化
定期的な情報共有会の実施 月1回、医事課・各診療科との情報共有会を実施し、問題の早期発見・解決を図りましょう。
こういう取り組みがない病院の場合、一度提案してみるか、難しい場合は自分の部署内だけでも情報共有するといいと思います。
業務フローの可視化 部署間での業務の流れを図式化し、ボトルネックとなる部分を特定・改善していきましょう。
3. 継続的なスキルアップ
関連資格の取得 診療報酬請求事務能力認定試験や医療経営士等の資格取得により、専門知識を体系的に習得しています。
参考:公益財団法人 日本医療保険事務協会 診療報酬請求事務能力認定試験の概要
外部研修への積極参加 医療機関会計研修や診療報酬改定説明会に定期的に参加し、最新情報のキャッチアップを行いましょう。
まとめ
病院経理の忙しさは、単純な人手不足だけでなく、医療業界特有の複雑な制度と24時間365日稼働という特殊性に起因しています。
しかし、業務の標準化、関係部署との連携、継続的なスキルアップにより、効率的に業務を進めることは可能です。
病院経理を目指す方、現在病院経理で苦労されている方の参考になれば幸いです。医療現場を支える重要な役割として、やりがいを感じながら業務に取り組んでいただきたいと思います。
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